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東京高等裁判所 平成6年(ラ)1298号 決定

抗告人

下坂ロサンナ

右代理人弁護士

松井茂樹

主文

一  原決定を取り消す。

二  本件を原審に差し戻す。

理由

一  申立て

本件抗告の趣旨及び理由は、別紙即時抗告状記載のとおりである。

二  判断

一件記録によれば、抗告人は平成五年に基本事件債務者を被告として金四三万一五五〇円の未払給料(一時間当たり一七〇〇円のホステス給料)及びこれに対する同年四月九日から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める訴訟を提起し、同年五月二一日の同訴訟第一回口頭弁論期日において基本事件債務者が抗告人の右請求を認諾したこと、抗告人は右訴訟の訴状に貼付すべき手数料について同年四月五日に訴訟上の救助を付与されていること、抗告人は原審裁判所から基本事件の執行費用として金四〇万円を予納すべき旨の指示を受けているようであることが認められるところ、右訴訟提起後本件申立てに至るまでの間に抗告人の資産収入が格別に増額したと認めるに足りる証拠資料はないから、右執行費用の金額と対比して抗告人は「訴訟費用ヲ支払ウ資力」がないものというべきである。

ところで、強制執行事件のみについて訴訟上の救助の付与の申立てがあった場合には、「勝訴ノ見込ナキニ非サルトキ」(民事訴訟法一一八条ただし書)に該当するかどうかは執行の目的を達成する見込みがないかどうかについてみるのが相当であると解される。これを本件について見ると、基本事件の競売対象不動産である建物(東京都江戸川区南小岩所在の木造瓦葺二階建居宅店舗。一階79.40平方メートル、二階74.67平方メートル。以下「本件建物」という。)についての右債務者の持分六分の一(以下「本件持分」という。)について現況調査、評価等の所定手続完了後、本件持分の最低売却価額で剰余の生ずる見込みがあるかどうか、本件持分が適法かつ現実に売却される見込みがあるかどうかによって決するべきである。そして、もとより右現況調査、評価等を経なければ不明であるが、一件記録によれば、本件建物の登記簿上乙区欄には何らの記載のないことが認められ、右建物の所在、規模からして本件持分の最低売却価額で剰余の生ずる見込みがないことになるとは直ちに考え難く、また、原決定理由4のとおり、建物の共有持分の市場性は極めて低く、買受人が出現しないため取下等によって事件が終了することが少なくないとしても、そのような一般的傾向のみに基づいて、本件持分についても買受人が出現することはないとは到底いえないから、競売対象不動産が右のような共有持分であることのみをもって執行の目的を達成する見込みがないとすることは相当でない。

右を要するに、執行裁判所としては、抗告人に対して執行費用として予納させるべき金額を確定し、かつ、本件建物ないし本件持分の評価額につき、抗告人に資料を提出させ、執行裁判所における従前の他の同様の事例と対比するなどして、剰余を生ずる見込みがないことになる可能性が高いのかどうかなどについて、より具体的に判断した上で右訴訟上の救助の付与の当否について決するべきであり、原決定記載の理由のみによって本件訴訟上の救助の付与の申立てを却下することはできなものというべきである。

よって、原決定は失当であるから取り消すこととし、右の点につき更に審査した上訴訟上の救助の付与をすべきかどうか判断するのが相当であるから、本件を原審裁判所に差し戻すこととする。

(裁判長裁判官村田長生 裁判官伊藤剛 裁判官髙野伸)

別紙即時抗告状〈省略〉

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